本研究課題の目的は、1980年代の後半に、(旧西)ドイツの教育学で議論された近代教育学の理論的総点検、再編成の問題が、ベルリンの「壁」の崩壊からドイツ統一という政治的激動を通じて、どのように変容したのかを探ることにあった。そのために、1)統一後の人員再編、すなわち各研究機関における教育研究者の異動についての考察、2)統一問題、EC統合問題への旧西ドイツの教育学者の理論的対応についての考察、3)統一後の状況に批判的な教育学者の議論の整理、の3つの作業計画を立て、昨年3月には現地調査を行って研究を進めた。 上記のうち、1)については、個人研究で全体的動向を探ることには無理があり、かつ有益でもないと判断し、東西の接点であるベルリン地域、とりわけ旧東ドイツ地域に属するフンボルト大学に注目した。その結果、同大学では、大幅な組織の改編、人事異動があり、一般教育部門、教育心理学部門、学校教育部門、社会教育部門のいずれにおいても、少数の例外を除いて旧西ドイツの教育研究者で占められていることがわかった。その中でも、基幹部門と思われる一般教育部門では、シュリーヴァー、テノールト等、社会システム理論を方法論とする研究者が中心を占め、旧東時代とは大きく趣を異にしている。今後注目すべき論点がつかめた。2)については、隔年開催のドイツ教育学会大会(94年3月の第14回大会)に参加した際に資料収拾につとめたが、今年度は具体的に着手出来なかった。3)については、資料分析の結果、統一直後の旧東ドイツ教育学の「清算」と旧西ドイツによる「植民地化」という論調から、近年では職を失った旧東ドイツ研究者のみではなく、若手研究者も交えて、東西の学校制度の差異の問題、失業青年の風俗の問題等、かなり多様な研究が現れてきており、今後引き続き注目したい。 以上の研究成果については、現在論文を作成し、投稿準備中である。
|