本年度の研究実績は以下の3点にまとめられる。(1)19世紀後半から世紀転換期にかけてのイギリス史および環境保護思想・運動史にかんする一次文献・二次文献の購入。(2)京都大学ほかに所蔵されている世紀転換期のイギリス論壇における複写。(3)研究会での発表および論文作成。(1)としては、イギリス関係の基本的な文献のほか、世紀転換期に創刊されたアメリカのNational Geographic Magazine誌のリプリントなど、当時の環境保護思想を国際的な文脈のなかで理解するうえで重要な文献を収集・購入することができた。(2)としては、のちに資源保護のための調査研究機関としての性格を帯びるインペリアル・インスティテュートImperial Instituteの創立にかんする資料や、19世紀後半に興隆するいわゆる総合評論雑誌における大英帝国論、さらに、そういった主流評論雑誌の論調に反旗を翻した周辺的な急進系知識人たちによる雑誌における帝国主義批判論などを閲覧・複写することができた。(3)としては、まず1994年5月にICUで開催された日本西洋史学会大会にて「イギリス『人類教』とその継承者たち:大英帝国にかんする議論をめぐって」という演題で発表をおこない、「人類と環境と生存競争」という世紀末帝国主義者たちの間に見られる発想の歴史的な系譜をたどった。また、大英帝国にかんする時論を展開したのはいわゆる知識人と呼ばれる人々が多いが、19世紀後半のイギリスにおける知識人たちの形成をあつかった光永雅明(著)「教養人としての『研究者』:ヴィクトリア時代における知識人像の転換」を裏面山田・阪上編著『人文学のアナトミ-』所収論文(1995年4月岩波書店より刊行予定)として執筆した。さらに、(1)(2)で得られた文献資料をもとにしたイギリス環境保護史と帝国主義にかかわる論文を準備中である。
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