本研究の目的は、1970年代アメリカ演劇における演劇思想の全体像を明らかにすることにあった。当該年度において、研究者は、当研究補助金によって、課題についての資料収集を中心にして研究を進めるだけでなく、資料整理に重点を置きつつ、論文を執筆し、研究課題をめぐる現時点での研究者の成果を発表する機会を得ることもできた。 当研究課題について、今後の研究の方向性をも含め、現時点で明らかになった点を列挙するならば、1)これまでの先行研究においてなされてきたように、70年代のアメリカ演劇をモダニストの系譜学の中でフォルマリストとして捉えることには大きな問題があること。2)80年代半ば以降急速に政治化するアメリカ演劇までを視野におさめなければ、70年代演劇を正当に評価することはできないこと。3)60年代以降、アメリカとほぼ同じような演劇思想史的展開をしている日本における現代演劇の問題を、当研究に導入することによって、より幅広い視野からの考察が可能になることが予想されること。4)同じように、ポストモダンダンスを含む、ダンスというジャンルと演劇とのジャンルとしての関係性を十分に押さえておく必要があること。5)上記のような研究の方向性を探るために、西洋と日本の近代劇の比較演劇学的研究、ならびにダンス史の包括的な研究が必要になること。 以上のような点をふまえつつ、研究者は後記のように、年度内に当研究課題にかかわる3本の雑誌論文を発表(内、1本は発表予定)したが、3本とも、真っ向から研究課題を論じるというよりも、周辺領域をめぐる現時点での研究者の研究の成果を示すことに眼目があったことをここで付記しておきたい。
|