二十世紀に日本語で書かれた小説のなかで英語に翻訳されたものの、英語、日本語テキストを比較分析し、日英語の引用構造の違いを調べるという研究実施計画に基づいて、本年度は研究を進めた。夏目漱石、谷崎潤一郎、三島由紀夫、大江健三郎、村上春樹、吉本ばなな、夏樹静子、内田康夫らの小説とその英訳テキストを比較した。その結果、作者の文体、翻訳者の文体といった個々の書き手の特性をこえた、一般的な傾向として観察されたことは、人称・時間・場所などのダイクシスの使用において日本語のほうが直接話法性が強いことである。各小説テキストの分析から、ダイクシス、動詞の時制、引用符、引用節などの量的な分布を示すデータを得るところまでは まだ作業がおよばなかった。したがって交付申請書作成時のこれらの量的データ処理のための補助研究者への謝金としたものは使用しておらず、変わって、質的分析に際して必要な参考書などに使用した。なお、日英語の比較を進める中で、日本語に特徴的な「女性語」の言語特徴が発話・思考の描出箇所で興味深い分布を示していることが観察されたので、交付申請書作成時の予定にはなったが、引用構造における女性語特徴の分布も調べることにし、これに関する参考文献を購入した。また、発話・思考の論文の公表は、本年度中に果たすことができず、まだ、投稿準備中で、来年度中に発表する予定である。その際には、とくに英語テキストで自由間接話法が使われている箇所が日本語ではどういう特徴を示しているかを考察する予定である。
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