1 国際移転価格紛争が国家間での課税ベースの奪い合いであることはこれまでの知見により明らかになっている。本研究では、その所得移転に対する所得課税上の規制としての移転価格税制における今日的問題点が、取引価格の認定ではなく、むしろその背後にある取引の経済的合理性であることを、近時相次いで公表された米国財務省規則とOECD報告書をもとに検討し、それらのなかで欠落している重要論点として取引類型論、機能分析の一環としての取引当事者の負担する「リスク」の経済的評価及び紛争解決手続が存することを指摘した。 2 しかし、このような経済分析志向の移転価格分析の欠点として、国家間での移転価格紛争の解決手続が実体法的な価格論争に強く影響を与えていることが上述の2件の基礎資料やEC加盟国での最近の仲裁協定の批准動向の分析から明らかとなった。結局、現下の移転価格をめぐる法政策とは、関連企業間取引価格論争における、収益率などの財務指標による比較という実体法的問題と、それをどのような紛争解決手続に乗せて議論するかという手続法的問題の二面的な把握を必要としており、実体法的問題は手続法的基礎において議論されるべきであるということが、本研究において得られた我が国にとっての法政策の基本的的方向性である、といえよう。なかでも租税仲裁手続きは既存の相互協議手続の補完として今後我が国でも研究されるべき制度である。 3 なお、これらの点については平成6年7月の「関西大学国際シンポジウム:国際租税秩序の構築」における主報告に対する「国際移転価格の紛争解決方式のあり方-主報告へのコメントと問題点の指摘」とのコメント、同年12月の「明治学院大学『立法研究会』主催シンポジウム『日本をめぐる国際租税環境-アメリカと日本』」での「日本側からみた移転価格税制」との報告に際して、問題点の指摘と解決方法の提唱を行った。
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