本年度は、冷戦初期から1950年代中葉までの冷戦の展開過程および米英日の対応に関する文献を渉猟し、その批判的検討を試みた。米国の冷戦認識についての分析は、既に様々な研究が存在するが、英国の冷戦認識については、我が国において特に先行業績が希薄な為、公刊された第二次世界大戦後の英国政府の外交文書集を、補助金によって購入し、現在読み進めている。また、研究対象となる時期において、英国の冷戦認識と米国の冷戦認識との差異を最も顕著に示した事例は、インドシナ戦争の終結過程などのアジア冷戦に対する両国の対応に見出せることから、この問題についての関連図書を購入し分析を加えている。 日本の冷戦認識については、1950年代初頭に焦点をあわせて研究を試みている。その結果、未だ分析は、終了していないが、占領期を終えた日本の外交形成において、極めて重要な影響を及ぼした要因として、ナショナリズムが存在していること、このナショナリズムは、政府等によって唱導された「公定ナショナリズム」としての側面を持ち、また米国の対共産主義国戦略の影響下において、米国からの圧力と日本の公定ナショナリズムとが、相互に連動しながら展開したこと、戦前期とは、異なり、大衆レベルでは、一国主義的なナショナリズムではなく、むしろナショナリズムにたいする疑念と日本の防衛というリアルな必要性との葛藤の中で、極めて不定形なナショナリズムが形成されたことについて、仮説を導出した。 もとより、本研究は、単年度ではその初歩的な仮説形成にて満足しなければならないが、今後、本年度の研究実績とその過程で蓄積したデータベースを基礎に、さらに分析を進める予定である。
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