本研究では、日韓国交正常化と韓国軍のヴェトナム派兵という2つの問題に現れる日米韓3国の政府の冷戦認識のをめぐる葛藤が、韓国の輸出志向型工業化戦略の展開におけるダイナミズムをどのように形成することになったのかを、日韓米3国の一次資料を分析することにより明らかにした。その結果、次の成果が得られた。第一に、韓国政府の冷戦構造に対する過剰なコミットメントが、日米両国との間において、日韓国交正常化に伴う外資導入やヴェトナム特需という形で、ある一定の有利な譲歩を引き出すことができた。第二に、しかしながら、日米の冷戦認識と韓国政府の冷戦認識との間の乖離が増大することによって、そうした「冷戦利用型」の経済開発戦略が再検討を迫られることになり、70年代重化学工業化への展開の原動力になった。このように、本研究は、政治と経済との関係を実証的に明らかにしていくことによって、先行研究に比べて実証性の高い成果を上げることができた。 他方、本研究の理論的貢献については、韓国の輸出志向型工業化が「冷戦構造を利用」したものであったことを実証することにより、韓国の政治経済に関する既存の理論的枠組みの問題点を摘出することができた。特に、先行研究の中で重要な地位を占めるようになっている国家・制度論解釈に対する本格的な批判を提起したという点は、独創的な成果である。しかし、それをさらに発展させて、国際政治経済に関する独自の解釈を構築する作業は、今後の課題として残った。
|