研究概要 |
【理論的研究に関する実績】 在庫投資や設備投資などのストック調整の局面において,経済主体(企業)の予想形成をどのように定式化するかに依存してカオス的振る舞いが発生することが明らかとなった.具体的に言えば,連続時間のメッツラ-型在庫循環モデルにおいて,産出量の予想が現在の産出量とその変化率によって決まるという外挿的期待形成を変形して,さらに変化率の変化の度合い(産出量の時間に関する2階微分)を表す項を加えると,産出量の挙動は極めて複雑になりストレンジ・アトラクターが出現するようになる.これは解析的には直接確かめることはできないが,コンピュータによる数値シミュレーションによって明らかとなる.経済モデルにおいて想の役割が極めて重要であることが,改めて確認されたと言えよう.今後の計画としては,在庫循環に関する分析を包括的にまとめ,さらにこのような分析を設備投資循環へ拡張することを考えている. 【実証的研究に関する実績】 時系列データがストレンジ・アトラクターとしての性質を備えているか否かの検定に関して,データの前処理(移動平均,対前年同期比など)はかなり影響を持つことが確かめられつつある.現時点ではまだ確定的な結論は得られていないが,周知のカオス系が生成するデータにトレンド,季節変動,ノイズなどを加え,それに前処理を施すと,たいていはカオスの判定結果が異なってくるようである.今後の計画としては,状態空間モデルによる時系列の分解手法なども利用して,データの前処理の是非に関して知見を深めていくことを考えている.
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