本研究は、A_2BX_4型で単斜晶系Sr_2GeS_4構造(α状態)をとる物質の中から、AサイトにKを持つ物質の単結晶育成を試みた結果、K_2ZnI_4とK_2CoI_4の2物質の強誘電性を発見するに至った。K_2ZnI_4とK_2CoI_4のキュリー点、Tcはそれぞれ270Kと250K付近に存在し、AサイトにRbを持つ、Rb_2ZnI_4とRb_2CoI_4の相転移点(この転移点がTcに相当するものと考えられている)はそれぞれ62.4Kと30Kに存在する。本研究はRb塩と強誘電体のK塩との比較により、Aサイトを、大きくて重いRbから、小さくて軽いKに置換することにより、Tcは高温側へシフトする、という経験則を明らかにした。また、Bサイトの、ZnからCoへの置換が、Tcを下げる傾向があるということ、また熱分析により、K_2ZnI_4にはα-β相転移が存在しないことを明らかにした。さらに、Rb_2ZnI_4K_2ZnI_4の混晶である(Rb_<1-x>とK_x)_2ZnI_4の単結晶を育成し、混晶系のそれぞれの比率での誘電率の温度依存性の一覧を完成し、上記の、RbからKへのAサイトの置換がTcを高温側へシフトさせる、という経験則が明確となった。その他、Aサイトを、さらに重いTlに、XサイトをIより小さくて軽いBrに置換した、Tl_2ZnBr_4とTl_2CoBr_4の単結晶を育成し、α状態ではTc(便宜上こう呼ぶ)がほぼ18Kに存在し、α-β転移と思われる熱異常を470K付近に見い出した。さらに、K_2ZnBr_4などと同様に、β状態(斜方晶系、β-K_2SO_4構造)からの過冷却が可能であることも分かった。これで、α-β相転移を持ち、β状態が過冷却可能であり、しかも強誘電性を示す可能性のある物質群は、K_2ZnBr_4、K_2CoBr_4、Rb_2MnI_4、Rb_2ZnI_4、Rb_2CoI_4、Tl_2ZnBr_4、Tl_2CoBr_4の7物質となり、今後もこのような物質探索が望まれるところである。 以上、K_2ZnI_4とK_2CoI_4の強誘電性については、J.Phys.Soc.Jpn.に論文公表済みであり、上記の混晶系(Rb_<1-x>K_x)_2ZnI_4とTl塩の研究結果については、1994年日本物理学会秋の分科会(於:静岡大学)の誘電体分科で既に報告済みであることを付記しておく。
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