研究概要 |
本申請研究では、初めての試みとして、ラジカル種を経由する光化学反応制御への超音波化学の応用を行ない、その有効性を検討した。その結果次のような新しい成果を得た。 1.本研究のために、超音波照射と紫外線照射が同時に可能な装置と、超音波セルを新たに開発した。従来の装置では両者の同時照射が困難であったが、本装置では両者による励起が有効に起こることが確認され、所期の目的にかなった装置が開発できた。 2.超音波と光の同時照射の最初の応用として、よく知られたベンゾフェノンなどのケトン類の光励起水素引き抜き反応について、超音波照射の影響を検討した。各種溶媒を用いてこの光反応を試みた結果、テトラヒドロフランを用いた時に、超音波照射時と非照射時との差違が観測された。これは超音波と紫外線を同時に照射したときのみ、反応生成物の回収量が著しく増加する現象であった。これは主に2-ヒドロペルオキシテトラヒドロフランの生成によるものであり、生成には、同時に超音波と紫外線が照射されることが不可欠であった。超音波や紫外線単独、あるいは、紫外線照射後に超音波照射を行った場合、その逆のいずれでも効果がなかった。用いたテトラヒドロフランには安定剤として2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノールが含まれており、このような過酸化物の生成は通常あり得ず、同時に超音波と紫外線が照射されたことが原因である。現在、超音波照射の反応経路への効果のメカニズムは検討中である。しかし、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノールが同時照射によってのみ他の生成物に変化したと考えられ、これは光と超音波の同時照射による反応経路制御の最初の例を見いだしたものである。
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