研究概要 |
分子光スイッチは、ドナー分子(D)とアクセプター分子(A_1,A_2)から形成され、光により誘起される可逆な電子移動によってラジカルイオン対を形成・消失させ(D-A_1-A_2=^^<hu>__<hu>D^<・+>-A_1-A^<・->_2)、入力信号に応じてピコ秒レベルで吸収・発光波長の変換を可能にするものである。具体的には、N,N-ジメチルアニリン(DMA)、トリスビピリジルルテニウム錯体(Ru(bpy)_3^<2+>)、メチルビオローゲン(MV)をメチレン鎖で連結させた 1 (DMA-Ru(bpy)_3^<2+>-MV)を分子設計した。 まず、DMA-Ru(bpy)_3^<2+>、Ru(bpy)_3^<2+>-MVを合成し、その吸収・発光スペクトルの測定から2分子間の電子移動と構造との相関関係を評価した。吸収スペクトルの測定から、基底状態において分子間に相互作用がないことを確認した。また、Ru(bpy)_3^<2+>からの強い発光がDMA-Ru(bpy)_3^<2+>ではみられたのに対し、Ru(bpy)_3^<2+>-MVでは完全に消光されておりRu(bpy)_3^<2+>からMVへ電子移動が誘起されることを確信した。 酸化還元電位を測定しRehn-Weller式より電子移動にともなう自由エネルギー変化(ΔG)を算出した。Ru(bpy)_3^<2+>-MVではΔG=-53kJ/molと発熱的であるのに対し、DMA-Ru(bpy)_3^<2+>ではΔG=3.7kJ/molと吸熱的であることがわかった。これはDMAの酸化電位(E^<+/0>=0.57V vs.SCE)がDMA-Ru(bpy)_3^<2+>において0.25Vも上昇しているためであり、このようなDMAの著しい酸化電位の上昇は、Ru(bpy)_3^<2+>をメチレン鎖を介し直接DMAのアミノ基に結合させたことが原因と考えられ分子設計の再考を必要とすることがわかった。 今後は、フェロセン、テトラメチルフェニレンジアミンなどのより強力なドナー分子を取り入れるとともに、アミド・エステル基によるドナーとアクセプター分子間の結合を考慮するなど機能-構造相関関係の評価を通じて分子光スイッチの最適構造を明らかにしていく予定である。
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