研究概要 |
生体組織が,絶えず自らを成長・吸収させることにより,機能を維持・回復し,力学的環境の変化に対して適応する能力を有していることは広く認められている.骨の再構築による力学的適応モデルは,連続体としての応力やひずみを用いて現象論的に表現されることが多い.しかしながら,骨に作用する力学負荷と再構築との間には,様々な連関したメカニズムが含まれていることが予想され,モデルの詳細化においてはそれらの階層性の考慮が不可欠となる.本研究では特に力学的階層性に着目し骨粱レベルでの力学状態と巨視的力学状態とを結び付ける適応モデルの提案とシミュレーションを行った. 1.格子連続体モデルを用いて組織構造レベルでの応力調整過程としての力学的適応の現象論的数理モデルを提案した.また,骨粱構造の形態特徴量を計測し,格子連続体モデルのパラメータの決定を試みた. 2.直交格子モデルが先見的に仮定する再構築平衡状態における骨粱構造の直交性をより一般的な記述により拡張するため,斜交格子連続体モデルを提案するとともに,骨粱配向変化の再構築モデルを提案した.再構築平衡状態における最適性として骨粱表面での等応力状態を仮定することにより,先に示した直交格子モデルの再構築則が同じ形式で導かれ,せん断の有効応力を用いた形式で格子の配向変化を表現できることが示された. 3.骨粱表面再構築の直接シミュレーションモデルを提案した.骨粱表面での等応力化規範を適用することで,斜交格子連続体モデルを用いた再構築モデルの解と定性的に同じ結果が得られることが確認された.Wolffの仮説等に述べられる骨粱構造と力学的環境との関連を探る一つの手法として,提案した直接シミュレーションの有効性が期待される.また,応力均一化等の仮説の検証により骨の力学的適応性の理解が深まるものと考えられる.
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