研究概要 |
まず,実験(1)として真空機構を有する試料作成装置を試作し,人工血液(純水の20倍の酸素溶解能力)中の酸素量を変化させた際の,水プロトン化学シフトの温度特性を評価した.その結果,無酸素及び飽和酸素状態における温度係数の違いは高々10^<-3>ppm/℃であった.次に実験(2)としてマウスの後肢骨格筋における水プロトン化学シフトの温度特性を磁気共鳴分光器により詳細に評価した.その結果,本指標は,内部基準なしの場合,正の温度係数で非線形に変化し,ヒステリシスを呈した.脂肪内部基準を使った場合は負の温度係数で線形に変化し,ヒステリシスを示さなかった.なお直腸温が骨格筋の温度変化に追従して変化していた.続いて実験(3)としてラットの後肢骨格筋の温度を局所的に制御し,磁気共鳴分光画像化装置を用いて(2)と同様の評価を行った.その結果,本指標は内部基準の有無に拘らず負の温度係数で線形に変化し,ヒステリシスを示さなかった.最後に実験(4)として,実験(3)と同時に,右後肢を含む断層における温度分布の定量画像化を試みた.3D-MRSI法及びフェーズマップ法による撮像データを処理し,温度画像を得た. 実験(1)の結果から血中酸素の影響は極めて小さく,温度特性に影響を与える因子としては還元ヘモグロビンが支配的と考えられた.実験(2)及び(3)の結果の比較から,温度変化が全身に及んだ場合には,代謝が活性化すると同時に中枢動脈血流量が増加するため,組織の還元ヘモグロビン密度が増加し,水プロトン化学シフトが高周波シフトしたものと考えられた.非線形性及びヒステリシスは血流量の増減の非線形性及び時間遅延によるものと解釈された.温度変化が局所的な場合は代謝の活性化を伴わない末梢血流の増加に留まるため,還元ヘモグロビン密度の影響が小さかったと考えられた.これらを考慮すると,実験(4)で得た温度画像は内部基準を使用しない場合においても,温度分布を可視化したものと考えられた.以上より本年度の研究は還元ヘモグロビンの影響を現象論的に明らかにすると共に,体内温度分布の定量画像化法の有用性を実証した.
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