研究概要 |
1.炭酸ジメチル生成活性が見出された[RuCl(SnCl_3)(CO)(PPh_3)_3]は、[RuClH(CO)(PPh_3)_3]とSnCl_2・2H_2Oとの反応によって合成される。そこで,[RuClH(CO)(PPh_3)_3]を用いて添加物や反応雰囲気の炭酸ジメチル生成に対する効果について検討した。 2.[RuClH(CO)(PPh_3)_3]は既法に従って合成した。所定量のRu(II)錯体,SnCl_2・2H_2O,NaOCH_3を溶媒(ニトロメタン)に溶解し,メタノールを加え反応溶液とした。反応はステンレス製オートクレーブを用い,150〜180℃・ArまたはCO雰囲気下で行った。液相および気相生成物はガスクロマトグラフィーで定性・定量した。 3.[RuClH(CO)(PPh_3)_3]のみでは炭酸ジメチル生成はほとんどみられないが(180℃・Ar(10atm)下),SnCl_2・2H_2OをRuに対して20倍モル加えると活性は向上した(26時間でターンオーバー数0.12)。Sn添加によりギ酸メチル生成も24倍向上したことから,炭酸ジメチル生成にはギ酸メチルが関与すると考えられる。Sn助触媒としてはSn(OMe)_2も有効であった。一方,メタノールの脱水素触媒(ギ酸メチルを生成)として知られている[RuCl_2(PPh_3)_3]は,Sn(II)を添加しても炭酸ジメチルを生成しないことから,CO配位子も重要であることが示唆される。反応雰囲気をArからCOに変えたところ,炭酸ジメチル生成活性は向上したものの,その効果は小さかった(180℃・CO(10atm)下・26時間で触媒ターンオーバー数0.15)。また,NaOCH_3の添加(Ruの120倍モル)は炭酸ジメチル生成活性は向上させた(Ar雰囲気下・180℃・3時間でターンオーバー数3.56)。以上の結果から,本反応は,(i)メタノール脱水素生成物であるギ酸メチルのRu(II)への酸化的付加,(ii)OCH_3^-のカルボニル炭素への求核攻撃,により進行すると推定される。(i)の過程は三級ホスフィンの電子供与性が支配的効果をもつので,今後の指針として種々のホスフィン配位子を検討することが考えられよう。
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