研究概要 |
本研究は糖鎖工学的概念に基づいて考案されたものであり、特殊な糖鎖の関わっているガンの転移現象をその糖鎖の機能を妨げることにより抑制することを目的としている。具体的にはガン転移に必要なシアリルLe^a,Le^x糖鎖と類似な多糖を有するStreptococcus agalactiaeに感染する多糖分解性バクテリオファージを獲得し、その多糖分解酵素によってガン細胞表面のシアリルLe^a,Le^xを分解することおよびシアリルLe^a,Le^xと類似な多糖分解産物を転移系に拮抗物質として加えることによりガンの転移阻止を試みる。 以上の目的をふまえて本年度はS.agalactiaeに感染するバクテリオファージの分離と、シアリルLe^a,Le^x類似多糖の精製を行った。バクテリオファージの分離は、下水及びし尿をスクリーニング源として試みたが、現在までにシアリルLe^x糖鎖とよく似た多糖を持つS.agalactiae Ia型に感染するファージの存在を示すデータを得ている。シアリルLe^a糖鎖とよく似た多糖を持つIb型菌株に感染するファージは得られていない。得られたファージも増殖させることに困難が伴うので、ファージを大量調製し、その多糖分解活性を調べることは今後の課題である。一方、多糖の分離はIa型,Ib型菌株から行った。得られた多糖を使い、In vitroでの転移阻害実験を行った。ガン転移は血管内皮細胞とガン細胞の接着を介して進行するが、この現象をシャーレ上で実現し、そこにIa型,Ib型多糖を加えて接着阻害の有無を観察したところ、両多糖とも明確な阻害活性を持つことが示唆された。今後この多糖を市販の酵素や取得したファージの酵素で分解し、オリゴ糖としてのこの実験系に添加しその接着阻害活性を検討する予定である。
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