本研究では、光合成系の酸化還元サイトのモデル反応の際に従来使用されてきたエチレンジアミン四酢酸やトリエタノールアミンなどの高価な犠牲試薬の代わりに、安価でかつ酸化生成物が再還元されない電子供与体として塩素イオンを利用することを目的として、塩素イオンを効率よく酸化できる錯体触媒の分子設計・開発を行なった。塩素イオンの塩素分子への酸化は2電子移動反応を含む。したがって1段階で2電子酸化を行なうには1分子中に多数(複数)の金属を含む多核錯体が有利である。申請者はマンガンテトラフェニルポルフィリン錯体の高酸化状態が塩素イオンと反応することを見出していることから、多核金属錯体の配位子としてポルフィリン錯体をベースにした複核錯体の設計を試みた。すなわち、テトラフェニルポルフィリンの4箇所のフェニル基の1つのパラ位にカルボキシル基あるいはアミノ基を有するポルフィリンを合成し、このポルフィリン2分子間のスペーサー分子としてアラニンやフェニルアラニンあるいはロイシン等のアミノ酸を導入したポルフィリン二量体を設計した。得られた二量体は元素分析とNMRにより同定した。また、ポルフィリン錯体のみならず、2-ヒドロキシ-1-ナフトアルデヒドに種々のアミノ酸を修飾したシッフ塩基単核錯体の合成も行ない、元素分析とNMRによる同定を完了しており、現在それらの二量化を検討している。今後、中心金属にマンガンを挿入し、さらに塩素イオンをそれぞれの金属に配置させ、分光学的特性や電気化学的特性の調査を行なう予定である。多核金属錯体を用いた場合、酸化還元を伴う反応において複数金属の酸化還元により錯体は多電子を出し入れすることが可能であり、単核錯体では不可能な反応を触媒することが期待される。また、このような錯体は2個の塩素イオンを同時に適当な位置に配位しており、塩素-塩素結合の生成に有利な立体配位構造をとることが期待される。
|