本研究は、腹水肝癌AH109Aと腸間膜由来中皮細胞を共培養した際に誘導されるマトリックスメタロプロテアーゼを精製し、その性質を明らかにすることを目的とした。本酵素の精製に取り掛かる前に、その性質を詳細に再検討したところ、誘導される酵素は約62kDaのmajor bandと約68kDa、58kDaのminor bandの3種であることが明らかとなった。またあらかじめ有機水銀などの活性化剤とインキュベートした後に酵素活性を調べたところ、68kDaのものが58kDaのものに変換され、一方約62kDaのものが活性を失うことが確認された。そこで本酵素の基質特異性を再び検討するため、ゼラチン、TypeIコラーゲン、TypeIVコラーゲン、カゼインを基質としたZymographyを行ったところ、すべての分子量のものがカゼイン以外の基質に対して極めて強い分解活性を示した。しかしコラーゲンは温度によりその立体構造がゆるみ部分的にゼラチン化することが知られている。そこで、今回観察されたコラーゲン分解活性が部分的なゼラチン化により観察されたものかどうかを明らかにするためZymographyのインキュベート温度を低くしたところ、TypeIコラーゲン分解活性が消失した。以上の結果は、本酵素が活性型72kDa TypeIVコラゲナーゼと別の酵素の混合物である可能性を示唆している。そこで現在は72kDa TypeIVコラゲナーゼ抗体を用いて、確認を行ってる。一方、本酵素が誘導される機構に関しては、両細胞が接触することが必須であることを明らかにした。現在は、癌細胞の膜成分のみで誘導が起こるかを検討している。ここまでに明らかにされた事実は、癌細胞が正常細胞と接触した際に正常細胞側からのプロテアーゼの分泌を促進するという現象が起きていることを示唆しており、今後本酵素のcharacterizationとともに誘導機構を解析することで癌転移の分子機構の新たな一端が解明される可能性が考えられる。
|