移植心の血行動態調節及び、生理活性物質に対する生理反応の再成立に関する研究は極めて少なく、僅かに移植後早期に見られる心電図変化が報告されているにすぎない。本研究ではラット腹腔内に異所性心移植を行いその拒絶の程度によって変化する心電現象の電気生理学的評価法の確立を目指した。心移植後、頚部交感神経節と星状神経節を介する交感神経及び、迷走神経を経る副交感神経の離断によって神経性調節機能が喪失している。従って不整脈の発生やポンプ機能失調のメカニズムを知る上で、術後における心筋の神経性調節消失に代わる体液性調節機能の回復過程を電気生理学的に解明することはきわめて重要でる。方法としては以下の要領で行った。(1)同種異所心移植術:One-Lindsey法に準じてラットの腹腔内に他のラットから摘出した心臓を移植する。尚動物は、近交系PVGラットを用いた。免疫抑制剤を用いて生着を延ばし、術後1週間目、1カ月目に開腹開胸を行う3群を作成した。(2)心外膜電位及び、収縮力(in vivo)測定:改良を行ったFrantz押しつけ電極をそれぞれの群においてネイテッブ心と異所心の右室自由壁に押し当て、心電図・単相性活動電位(mAP)を記録する。この時体循環に投与したイソプロテレノール、アセチルコリン、膜透過性サイクリックAMPによるmAPの持続時間(mAPD)及び、心拍数の変化を記録した。同時にマイクロストレンゲージを固有-異所両心臓の左右心室前壁に3個ずつ取り付けin vivoでの自律神経作用物質による心収縮力変化を移植期間ごとに調べる。(3)単一細胞膜電流測定:移植期間別心筋細胞を酵素法によって単離し、140mMK-アスパルテート、10mM HEPESの潅流液中に浸漬し、パッチクランプ法(細胞接着型)にてカルシウム(Ca)電流を記録。直径数μmの巨大パッチパイペットを用いることにより細胞内環境を変えることなくCa電流を巨視的電流として記録する事ができるた。以上の手順によって以下のことが判明した。(1)心移植後の心電気現象の再開能力は移植手技間の心筋保護法によっての左右される。(2)低温心筋保護液には高K溶液(140mM程度)による細胞脱分極作用が必要である。(3)ラット左心室における拒絶反応の病理的所見は、以前報告されて結果と異なり同乳頭筋の拒絶病理所見と必ずしも一致しない。この結果は移植心の不均一な興奮現象の原因と見られ更に一層の検討を要するもの考えられた。
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