癌細胞の産生するserine proteinase inhibitor(SPI)のがん進展における生物学的意義について検討した。 これまでの研究からほぼすべての癌細胞株がなんらかのSPIを産生、分泌することを認めている。今回の研究では、先ず、これらのSPIを効率よく検討するためのreverse zymography法を考案した。この方法により各種癌細胞株の分泌するSPIをスクリーニングし、すべての癌細胞株が分子量100kDa以上の高分子量SPIを分泌していることを示し、これがprotease nexin-II(PN-II)であることを証明した。 次に同一膵癌細胞株よりクローニングされた組織学的分化度、転移浸潤能の異なるサブクローンを用いて、それらのSPI分泌能と形質の相関を検討した。その結果PN-II活性と分化能との間に正の相関を、浸潤転移能との間に負の相関を見い出した。このPN-II活性はPN-II mRNA levelを反映したものではなく、高転移株ではPN-IIを中和、ないし分解する活性が多いことによると推察された。実際低分子化したPN-IIが高転移株培養上清中に存在した。一方、Serpin-type SPIに関しては高転移株の方が明らかに分泌量が多く、特にalpha-1-antitrypsin(AAT)を高転移株が大量に分泌していた。このAATは一部のものは分子量が約5kDa減少しており、転移株にはAAT分解活性が存在すると考えられた。 最後に高転移株に認められたこれらのSPI分解活性と分解産物の意義を検討するためにSerpin-type SPIに共通してみられ、Serpin-enzyme complex receptorが認識するアミノ酸配列をもとに合成ペプチドを作り、その癌細胞に対する遊走活性を検討したところ、それは一部の癌細胞に対して遊走活性(peak:10-9M)を示した。これらの事から、癌細胞由来SPIは癌の進展において予想外の機能をもつ可能性が示された。
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