これまでアルツハイマー病(AD)脳に特有の病変と考えられてきたアミロイドβ蛋白(Aβ)の沈着が、ある種のミオパチー患者の筋病変のrimmed vacuole(RV)にも存在するという報告がなされた。RVはGomori-trichrome染色で赤色の顆粒状物質で縁取られた空胞で、周囲にはリソソーム系酵素活性の上昇が見られることより、autolysosomeの一種と考えられている。 従来より、Iysosomotropicな薬剤であるクロロキンはヒトあるいは実験動物にRVを伴う類似のミオパチーを惹き起こすことが知られている。そこで、我々は右後足の坐骨神経を結紮したラットにクロロキンを投与し、ヒラメ筋の病理学的、および免疫組織学的検討を行った。クロロキン投与7日後より筋線維には大小不同、萎縮性筋線維、筋線維の局所的崩壊、筋細胞内空胞が見出された。空胞内には顆粒状構造物が見られ、Gomori-trichrome変法染色で赤色に染め出された。14日後よりこれらの病変は進行し、空胞は著明となり次第に結合織の増生が明瞭となった。電顕的観察ではdense bodyの増加、種々の電子密度の変性産物、myelin様構造、空胞およびこれらの構造物より成る集塊形成が認められ、実験動物の筋病変はヒトの筋病変と極めてよく類似していた。 このミオパチーラットの筋病変に免疫病理学的検討を加え、RVにAβ、APPの各領域、APPのN端、およびC端の免疫反応性と、リソソーム酵素であるカテプシンDの局在とが一部一致することを初めて報告した。 ADには動物モデルのないことが研究面で大きな制約となってきたが、異常リソソーム系により生ずるこの実験的筋病変はAPPの分解過程やAβの生成、沈着過程を解明する上で有用な実験モデルである可能性が示唆された。現在この実験モデルの筋病変とAD脳のアミロイド病変を比較するために、これまで知られているAβ以外のアミロイド関連蛋白の関与を検討中である。
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