肺転移をおこすモデルとして初めて開発されたヌードマウス可移植性ヒト乳癌株のAC2468は1993年10月カリフォルニア大学SanDiego校RobertM.Hoffman教授より供与された。この乳癌腫瘍は肺に肉眼的に確認しうる腫瘍を形成すると報告されていたので、今回の実験モデルに採用した。しかし、1994年の10月までの約一年間に約3回の乳癌の乳腺内移植実験を行ったが、移植3カ月の時点において、いずれの実験においても肺の肉眼的転移は認めず、微小な腫瘍塞栓のみ認められるのみであった。肺に肉眼的転移腫瘍を形成しない原因は、移植方法、腫瘍の特質の変化、遅い腫瘍増殖などが考えられるが、いずれにせよ今回の実験には不適であると考え、腫瘍を変更することとした。そこでATCCよりMDA-MB435を入手した。このヒト乳癌腫瘍細胞株はヌードマウス乳腺に細胞を注入することにより、肺腫瘍を形成するとBreast Cancer Symposium(SanAntonio1993)で報告があった。先ず、肺内に生着するか否か確認する目的で、腫瘍細胞の尾静脈内注入実験を開始した。AC2468の肺の腫瘍は塞栓の状態で、基底膜を超えていなかったが、MDA-MB435腫瘍細胞10^6個を投与後、1か月で屠殺した肺の組織学的検討において基底膜を超えて増殖する腫瘍組織像を確認した。この肺で増殖した腫瘍はまだ小さく、腫瘍内血管新生の観察には不十分であり、個数も少なかったため5x10^6個を投与し、現在2カ月経過したヌードマウスを飼育中である。今後はこの腫瘍の肺内増殖を観察し、どの時点において血管新生阻害剤を投与すると肺での腫瘍増殖が抑制されるかを実験的に検討する予定である。
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