本研究は高齢者の頭蓋内出血例の転帰不良となる因子、特に脳の脆弱性の指標としてamyloid angiopathy(以下AA)の存在を重要視し、開頭手術を施行した高齢者頭蓋内出血例において病理学的にAAの存在を検索し、臨床像との比較検討を行なった。対象は1994年6月より1995年1月まで当院に入院し、脳動脈瘤破裂に伴うくも膜下出血、高血圧性脳内出血、外傷性頭蓋内出血と診断され、それに対して開頭術が成された60歳以上の高齢者例とした。内訳はくも膜下出血(7例)、脳内出血(小脳出血2例、被殻出血1例)、外傷性頭蓋内出血(1例)の計11例で年齢は60-92歳にわたり、平均69歳であった。また、60歳以上の慢性硬膜下血腫例に対する穿頭術に際し、硬膜の採取可能であった12例に関しても同様な検討を行なった。AAの存在の有無は病理所見により診断することとし、摘出標本は症例の転帰に全く影響を与えない髄膜(大多数が硬膜、くも膜の採取は多くの例で脳の侵襲の大きさを考慮し困難であった)とした。標本として髄膜をCongo-red染色し、髄膜血管のアミロイド沈着、Tunica mediaの破裂等の有無を観察した。また、頭蓋内出血における臨床、神経放射線学的所見とを対比検討し、高齢者頭蓋内出血例におけるAAの関与性を検討した。結果は、1)発症以前に痴呆症が存在する、2)CTscan上の血腫の形状が大葉性、3)明らかに容易な手術操作で脳内血腫が発生したなどの臨床的にAAの存在が疑われたのは3例であった。しかし、これらを含め11例全例において病理学的なAAの存在は証明されなかった。一方、慢性硬膜下血腫例においては、穿頭術による採取した硬膜であるため少量で、且つ手術による焼灼操作により挫滅破壊が著しく、全例不十分な標本作成となった。高齢者の開頭術の適応は限定され症例数が少ないが、症例を積み重ねるとともに、剖検例での検討も重要と考え、今後継続研究していく予定である。
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