研究概要 |
鼻粘膜上皮表層に存在する杯細胞は鼻粘膜固有層に存在する鼻腺細胞とともに鼻汁分泌に携わる重要な細胞である.今回,ラットを用い鼻中隔粘膜表層の杯細胞をビデオ強化式顕微鏡法によってリアルタイムに高倍率で観察し,杯細胞に内包する分泌顆粒のエキソサイトーシス反応を数えることにより杯細胞分泌を定量化することを試み,知覚神経の神経伝達物質であるサブスタンスP(SP),ニューロキニンA(NKA)及びカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)の杯細胞分泌に対する影響を検討した.鼻粘膜表層には杯細胞の他に繊毛細胞も存在しており,繊毛運動活性も光学電気的方法により同時に測定することにより,杯細胞分泌と繊毛運動活性の間に協調的関係があるか否かについても検討を加えた. カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)は杯細胞のエキソサイトーシス反応及び繊毛運動に影響を与えなかったが,サブスタンスP(SP)及びニューロキニンA(NKA)は杯細胞のエキソサイトーシス反応数を増加させた.またSPは繊毛運動も有意に亢進させ,NKAも繊毛運動を亢進する傾向が認められた.SP,NKAによる杯細胞からの分泌増加は繊毛運動の亢進とほぼ同時もしくはやや遅れて認められ,杯細胞分泌と繊毛運動とが極めて協調的及び合理的に粘液繊毛輸送系に関わり,生体防御の上で重要な役割を果たしていることが推察された.また今日まで未知であった知覚神経系の杯細胞分泌に対する役割があきらかになった.
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