ヒト歯胚における肝細胞増殖因子(hHGF)は間葉系で産生されパラクライン的に上皮系に作用しScatter作用を示すことから、上皮-間葉相互作用の本体であることが示唆されている。歯の発生においてもこの相互作用の重要性は指摘されている。そこで本研究では、まずヒト歯胚の間葉系である歯髄器中と、成人歯の歯髄中のhHGF量とを比較した。その結果、歯髄器は2.492±0.666pg/μg protein、成人歯髄は0.172±0.046pg/μg proteinのhHGFが測定された。以上の結果から、hHGFが歯の発生期において特に発現されていることが判明した。しかし、RNAレベルの観察は、歯胚の摘出条件及び歯髄器中のRNaseの多量の存在などから、歯髄器からのRNAの採取が困難なため、現在初代培養細胞にて比較検討中である。 次に、エナメル芽細胞におけるhHGFの作用を分化増殖の両面から検討を行った。すなわち、牛胎仔よりエナメル芽細胞を採取し培養液中に[^3H]leucineを加え、24時間後培養液を採取し濃縮後、SDS-PAGEを行った。エナメル芽細胞の特異的マーカーであるアメロジェニンに相当する分子量5000〜30000のバンドは、hHGFが10ng/mlまで用量依存的に減少した。また、増殖活性は[^3H]tymidineの取り込みによるDNA合成能を調べることにより検討したところ、hHGFが10ng/mlまで用量依存的に減少した。以上の結果よりエナメル芽細胞の分化も増殖もhHGFは抑制するという結論が得られたが、その後培養時のエナメル芽細胞の純度に問題があることがわかり再度検討を行っている。
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