歯科臨床において、局所麻酔による神経損傷、嚢胞等の神経圧迫で、歯や歯周組織に、感覚麻痺を生じることがある。しかし現在、麻痺の評価は麻痺領域の判定に留まり、神経自体の機能や麻痺の予後の判定は殆どなされていない。近年、感覚神経は情報を中枢へ伝達するほかに、末梢の血管拡張を起こすことが報告されている。 そこで本研究では、痛み刺激によって惹起される感覚神経による血管拡張反応をパラメータとして、(1)感覚麻痺の程度と(2)麻痺の予後を定量的に測定する方法を確立することを目的とした。当該年度は、動物実験によって口腔内の痛みが感覚神経由来に血管拡張を発現する領域を確認し、さらにヒトにおいて、痛み刺激の測定を行うために、痛みの測定基準を設定し、歯科疾患による痛みの臨床応用を試みた。その結果、 A.動物実験によって 上顎犬歯の侵害性電気刺激により刺激側と同側の上下顎歯肉、頬粘膜、口蓋、舌および下唇などの種々の組織に、感覚神経由来の血管拡張反応が観察された。 B.ヒトボランティアによって 1)歯髄の痛みをvisual analogue scale(VAS)を用いて測定したところ、同一人の痛みの測定には有効であったが、異なる人同士の間で痛みの比較は難しいことが判明した。そこで、(1)VASの最大値を"想像した最強の痛み"とし、(2)"これまでに経験した最強の痛み"をVAS上に比較基準としてのせることにより、安定したVAS値が得られるようになった。 2)上記方法に従って、舌の痛みを主訴とした患者の痛みの定量を行った結果、疾患の診断と治療効果の判定にVASは非常に有効であった。
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