歯科治療時、局所麻酔薬の効果発現前に治療を開始すると、疼痛によって局所麻酔薬が効きにくいことがあるといわれている。その現象を解明するために、ラットの顎舌骨筋神経を用いて、局所麻酔投与直前に加えたオトガイ皮膚刺激(pre-stimulation)が局所麻酔薬による求心性活動電位の抑制に与える影響を検討した。 研究には生後8-10週のwister系雌ラット40匹を用い、チオペンタール腹腔内麻酔後、剃毛処置を行い保温パッド上に仰臥位に固定装置で固定し、手術用顕微鏡下で顎舌骨筋神経を剖出した。オトガイ部刺激は流速1l/secの室内空気を皮膚面に直角に加えた。記録電極は絶縁被覆したタングステン微小電極の先端をフック状に加工したものを用いた。局所麻酔薬は先端径50μmの油圧ポンプにより剖出した神経に滴下した。導出された求心性神経放電はプリアンプとメインアンプで増幅後、データレコーダに記録し分析を行った。その結果、pre-stimulationを与えなかった群は、局所麻酔滴下後68±21secで求心性神経放電は消失した。一方、局所麻酔投与前にpre-stimulationを与えた群は79±33secであった。統計学的には両群間に有意差を認めなかった。したがって、「疼痛が局所麻酔作用の発現を抑制して無痛にできないという現象」は、末梢受容器のadaptationによるものではなく、中枢のsummationあるいはsuround inhibitionにより起こるものと推測された。
|