運動負荷中の血中乳酸濃度の測定は、被検者の有酸素的運動能力の評価や、相対的運動強度の推定などに広く用いられているが、血中乳酸濃度の測定には採血を伴うため、被検者に対する負担が大きいことや、負荷する運動の種類によっては運動を一時停止する必要があるなど、様々な問題点が指摘されており、簡易方法による血中乳酸濃度動態モニタリングの開発が期待されている。 そこで本研究では、電極センサーシステムによる唾液中乳酸濃度測定の妥当性を検討したうえで、運動負荷中および回復過程における唾液中の乳酸濃度を測定し、その濃度動態の特徴について検討した。また、血中乳酸濃度の上昇と唾液中乳酸濃度の上昇時間のタイムラグを計測して、実際の運動場面における唾液中乳酸濃度測定の妥当性について検討した。 その結果、安静時における血液と唾液中の乳酸濃度にr=0.873の高い相関が認められ、唾液による血中乳酸濃度のモニタリングの可能性が示唆された。また、運動負荷時における血液中および唾液中乳酸濃度の最高値について比較検討した結果、血液と唾液中の乳酸濃度にr=0.730の高い相関が認められ、その最高値の発現には平均12.8分のタイムラグがあり、唾液中乳酸濃度は回復過程平均19.0分目に最高値を示すことが明らかになった。これらの結果から、運動負荷終了後約20分経過時点における唾液中の乳酸濃度を測定することにより、負荷した運動の相対的強度を推定可能であることが示唆された。今後さらにセンサーの改良を重ね、唾液中の乳酸濃度を正確に測定することを可能にして、運動能力の判定および運動強度の監視面における唾液中乳酸濃度測定の有用性について、検討を加える予定である。
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