運動技術習得過程においては、自然科学的なアプローチはほとんど役に立たない。というのも、運動を習得すると言うことは、習得する運動の「感じ」をつかむことであり、この「感じ」がわからなければ運動は習得できないのである。この運動の「感じ」は、絶対時間空間とは違い、人間の意識としてとらえている時間空間の中に存在する。従って運動の速度(物理時間)などが明らかになっても、その速度と学習者が持っている速度感覚とが異なってしまえば、物理時間での速度がいくら正しくても、習得するための「感じ」は生まれてこない。指導実践場面では、このような外見的な正しさと、学習者の持つ運動の「感じ」との差がよく見られる。本研究ではこのような意識時間空間構造が絶対時間空間構造と異なっているということを前提に、意識時間空間構造が運動によってどのように構成されているかを明らかにするものである。 研究を進めた結果、個人個人が持っている意識時間空間構造は、ある一定の共通性を持っていることが明らかになった。運動によりその構造は異なるが、運動習得レベルの最高段階では同じような意識時間空間構造を持っている。間主観性の理論を基礎に、運動の習得レベルの最高段階では、同じような主観性が成立するということが今年度明らかになった。このような個人的間主観性とでもいえるような事実は、運動技術習得のための指導方法論に、全く新しい考え方を生むことになろう。まだ事例が少ないが、このような研究の積み重ねから、運動習得における意識時間空間構造がさらに明らかになるだろう。
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