本研究は主として近世史料を用いて、都市における怪異空間を復原・記述することを目標とした。そして本年度はさしあたり、江戸で流通していた説話的史料を分析することにより、新しい知見を得た。つまり科研費をいただいたお陰で、次の成果があがった。 (1)フィクション(怪異小説)で描かれる怪異空間には、読書(聞き手)にリアリティを感じさせる周到な状況描写がなされ、近世の怪異空間の論理が読み取れた。 (2)フィクションの怪異空間は、悪/良、魔/神という両面性を常に帯びており、日本文化に共通する空間的特徴をもつ。 (3)ノンフィクション(世間話)の怪異空間とフィクションのそれを比べ、その共通点と相違点を見出だせた。これは当時の空間認識を知る手掛かりとなる。 以上の知見は管見の限り、地理学はもちろん、このような研究対象を扱ってきた民俗学・歴史学などでも指摘されておらず、オリジナルな成果であろう。一方、このように研究を進めるプロセスで、いくつかの課題が残された。(1)地方都市(高知)の怪異空間と比較することを目指したが、在地の日記類を分析する途中である。(2)ノンフクションの空間のハード面での検証が残る。(3)空間に対する感覚のより詳細な検討が必要。(4)異なる時代・地域への目配りが欠ける。以上の仮題は次年度以降、解明していきたい。なお研究成果は学術論文以外にも、公開講座・放送ほか一般にも還元するよう心掛けた。
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