本研究では、まず、1.5μm帯の赤外光で発光するシンチレータの発光特性を求めることを最初の目標とし、シンチレータ冷却用のデュワ-などを用意し、光スペクトラムアナライザを用い、γ線、中性子線、X線などの照射中のZnS(Cu)シンチレータの発光の観察を行った。ところが、入手したZnS(Cu)シンチレータにおいては、光スペクトラムアナライザの感度が足りないこともあって、可視部分の発光が見られるのみであり、赤外線の発光を観察することはできなかった。そこで、赤外領域の波長に透明であるような他のシンチレーション結晶について、発光を調べることとした。その結果、CsI(Tl)シンチレータを液体窒素温度まで冷却した場合に、X線照射時に比較的強い1.5μm帯の赤外部の発光を発見し、その発光スペクトルを測定した。これは、これまでに報告されていないものであり、CsI(Tl)が赤外光に対して極めて高い透明度を有するため、大体積にして用いることが可能であり、光ファイバーにより、長距離伝送が可能であるなど、現在各研究機関で模索されている光による放射線計測に大きく寄与する可能性のあるものであると考えられる。赤外部の発光強度は可視部の約1/10であったが、これは、光子に換算すれば、可視部分の約1/3であり、光ファイバーレーザーなど、量子効率の高い良好な光子検出器を用いれば、可視部の発光を量子効率の低い光電子増倍管などで受けた場合に比較して殆ど同等となるものと考えられる。現在、通信分野を中心に広く用いられつつある光ファイバーレーザーであるエルビウムドープ光ファイバと、この赤外部の発光を組み合わせた放射線計測システムを構築中である。
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