マウス培養細胞FM3A由来のユビキチン活性化酵素E1の温度感受性変異株が紫外線(UV)に対し非許容温度処理によって高感受性を発現することをこれまで見出してきた。この感受性がUVのDNA損傷に対する細胞側の何等かの修復能の欠損によることを明らかにするため、本研究ではまずUVによる誘発突然変異についてヒボキサンチングアニンリボースリン酸トランスフェラーゼ(hprt)遺伝子の変異を指標に調べた。その結果、E1変異株はUV照射後非許容温度39℃に20時間おくことにより親株FM3Aよりも有意に誘発突然変異頻度が抑えられた。39℃処理をしない場合は親株と差はなかった。またE1変異株に外からマウスE1cDNAを発現ベクターにのせて導入すると、このUV誘発突然変異能の欠損は完全に相補された。以上の実験結果より、E1の失活により細胞内のUVによるDNA損傷の処理能力に異常が生じ、突然変異を伴うDNA修復機構に欠損が起こることが明らかとなった。このUVに対する感受性と誘発突然変異能の欠損というE1変異株の表現型はE1と同じユビキチン活性化系に属するユビキチン結合酵素E2の酵母変異株rad6/ubc2のものと一致しており、これらの事実は細胞内タンパク質分解系に関与するユビキチン活性化系が少なくとも部分的にDNA修復にも関与していることを示唆している。なお、UV照射後のクロマチン構成タンパク質ヒストンH2Aのユビキチン化についてもSDS-PAGEにより生化学的に解析したが、親株とE1変異株での差は見られなかった。また、許容温度でもUV感受性を示すE1変異株も得られており、現在この細胞を用いてDNA修復に関与するE2を生化学的に検出することを試みている。
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