マクロファージが発現し、リンパ球表面のシアル酸含有複合糖質を認識し接着する分子であるシアロアドヘジンは、シアル酸の種類によってその親和性が異なることが知られている。本研究において、シアル酸分子種を変換する酵素の発現と免疫細胞の接着との関連について、以下の点を明らかにした。 (1)免疫細胞表面のシアル酸分子種転換の機構 シアロアドヘジン高親和性のシアル酸種であるN-アセチルノイラミン酸(NeuAc)から低親和性のシアル酸種であるN-グリコリルノイラミン酸(NeuGu)への転換は、一種の水酸化酵素によって触媒されている。これまでにCMP-NeuAc水酸化酵素を同定し、最も主要なシアル酸分子種転換酵素であることを示してきた。本研究において、マウスの各組織における本酵素の活性量、本酵素のmRNA量、および細胞表面上のNeuGc発現量のそれぞれについて定量化し比較解析したところ、Tリンパ球における、NeuGc発現量は、活性レベル、mRNAレベルと良く対応していることが明らかになった。一方、遊離のシアル酸を水酸化する活性等、他の水酸化酵素活性はほとんど検出されなかったことより、Tリンパ球におけるシアル酸分子種の変化は主にCMP-NeuAc水酸化酵素のmRNAレベルで制御されていることが明らかになった。 (2)ヒト免疫細胞におけるシアル酸分子種転換の意義 ヒトTリンパ球の活性化に伴って、NeuGcが発現されてくるという報告がなされている。そこで、マウスのシアル酸分子種転換酵素のcDNAをプローブとしてサザンブロットを行ったところ、ヒトのゲノム中にマウスの本酵素配列とクロスハイブリダイズするバンドが検出された。従ってヒトの系においても複合糖質を介した免疫細胞の接着現象の制御にシアル酸分子種の転換反応が関与している可能性が考えれる。
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