血管内皮の張力を受けストレスファイバーを形成し、しっかりと下部組織にはり付く過程で、何がおこっているのかを分子生物学的に探るのが本研究の目的である。阻害剤を使った予備的な実験で、血管内皮細胞の張力刺激に対するストレスファイバー形成に蛋白質のリン酸化が必須である事が示唆された。そこでまずラット生体から取り出した血管を用い、リン酸化チロシン抗体を使って張力刺激とリン酸化との因果関係を蛋白化学的に調べたところ、張力刺激により、90kDa付近の蛋白質(のチロシン残基)がリン酸化されることがわかった。 さらにこの蛋白質の詳細な分子生物学的解析をするにあたっては、ラットから取りだした血管の内皮は量的にもまた精製度から言ってもそのまま使うには材料として不適当であると考えられた。そこで今回はヒト臍帯の静脈から血管内皮細胞の培養系を樹立しそれを薄いシリコンラバー上に培養して進展させ、まず上記のIn situの実験がIn vitroで再現できるか試みた。実際はステッピングモーターを使った培養細胞伸展装置を作成するのにかなりの時間をかけてしまったが、装置を完成させ、血管内皮細胞に継続的、もしくは周期的な張力刺激を与えることによって生体から取り出した血管と同じような形態変化を起こすことに成功した。今後は張力刺激を受けた細胞から蛋白質を抽出し、注目しているリン酸化蛋白質を電気泳動で分離同定後、切り出してアミノ酸配列を決定し既存の蛋白質と比較する。その後、新蛋白質であれば合成ペプチドで抗体を作らせ蛋白質の性質を明らかにするとともに、その抗体を使ってライブラリーをイムノスクリーニングにかけ、遺伝子をクローニングし、分子生物学的解析を進めていく予定である。
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