Dsor1はショウジョウバエのMAPKKで、その優性変異は各種のReceptor Tyr kinaseや、Sos、SH2-PTP、rafなどと遺伝的相互作用を示すことから、他のシグナル伝達因子とも遺伝的相互作用すると期待される。 トランスポゾンP因子の挿入により第3染色体に劣性突然変異を誘発し、Dsor1優性突然変異Sulを導入した際の表現型の変化(抑圧または増強)を、致死性と成虫外部形態に着目して検索した。約2000系統の検索から、表現型抑圧、増強の認められるものそれぞれ1、3系統を得た。解析の先行しているHPl26ホモ接合体は、多くが蛹期までに致死となり、一部が粗複眼や翅脈欠損を見せる成虫になるが、Dsor1^<Sul>により、それらが部分的に回復する。また、Elp(EGFレセプター優性変異)の複眼異常を抑圧することから、HPl26遺伝子産物はレセプターからMAPKKの間で機能すると予想される。P因子DNAをプローブとした解析を進めている。 また、第2染色体の既知の突然変異とMAPK形突然変異との遺伝的相互作用を検索したところ、laceと相互作用をもつことが明らかとなった。Dsor2の優性変異Su23、およびlaceのnull allele、HG34において、ヘテロ接合で共に観察される弱い過剰翅脈は、両変異の共存下では著しく増強される。これは翅脈形成におけるlace遺伝子産物の抑制的な機能が、MAPKシグナリングによって負に調節されることを示唆している。また、lace^<HG34>/lace^<5315>に認められる剛毛の消失や翅の周辺部欠損は、Dsor2^<Su23>導入によって完全に抑圧され、lace遺伝子産物の機能が、MAPKシグナリングによって正に調節されることを示唆している。以上からlace遺伝子産物は発生の異なる場面において、異なる様式でMAPKシグナリングの機能と関連していることが予測される。P因子挿入点より1kb以内から転写されると考えられるmRNAのcDNAを得て、解析を進めている。
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