本年度の研究では、第1に、嗅覚神経-嗅球スライスの共存培養系におけるシナプス結合の性質を明らかにするために、in vivoの嗅球との比較を行った。嗅覚神経より嗅球スライスに投射した軸索は、嗅球スライス上の僧帽細胞に対してシナプス結合を作っていることを確認した。しかしながら、培養系ではin vivoの状態とは異なり、シナプス結合の位置は僧帽細胞の細胞体付近であった。また、嗅球スライス上に糸球体が形成されることはなかった。 第2に、いったんシナプス結合が形成された嗅覚神経-嗅球共存培養系において、嗅覚神経の軸索の切断を試みた。切断は、申請書に示したACAS570を用いる方法ではなく、顕微鏡下、針を用いた手作業によって行った。これは、ACAS570を用いた場合、発熱が局所にとどまらないと考えたからである。全体の1/4-1/3程度の軸索を切断した場合、切断を受けた嗅覚神経は退縮、脱落し、別の神経細胞より軸索が進展し、嗅球スライス上の僧帽細胞に対してシナプス結合を作ることを確認した。このとき、伸長する軸索の先端付近においてN-CAMが強く発現することを抗体染色によって確認した。 第3に軸索再生時におけるN-CAMの役割を明らかにするために、培養液中に抗体を共存させたところ、再生過程において軸索先端が嗅球スライス上に達していない嗅覚神経はほとんどが脱落したのに対し、軸索先端が嗅球スライス上に達している場合はシナプス形成になんら影響を受けなかった。
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