研究概要 |
神経内分泌系および自律神経系機能の季節変動を検討した。8名の若齢者と6名の高齢者を被験者として,2007年5月,8月,10月と2008年2月のあわせて4回について実験を行った。実験では,40℃または42℃の湯に両側下腿を30分間浸漬し,この間の核心温,皮膚温,発汗量,皮膚血流量の変化を連続測定した。またこの温熱負荷実験の開始前(一部のホルモンは実験後にも測定)に静脈より採血して,VMA,HVA,5-HIAA,アンジオテンシンII,アルドステロン,レニン活性,ADH,コルチゾル,ACTH,GH,TSH,fT3,fT4,レプチン,IL-6などの濃度を測定した。水温42℃の下肢温浴では,鼓膜温は夏や春と比較して冬において有意に高値を示した。発汗量は冬や春に比べ夏において早期に発現し,発汗量も有意に多かった。ADHは冬や春と比べ夏において有意に高値を示した。IL-6は,冬に比べ秋と春において有意に低値を示した。ACTHは夏において有意に高値を示した。TSH,fT3,レプチンは男女とも統計的に有意な季節変化を示し,また男女間で有意差があった。以上の結果は,ADH,ACTH,VMA,IL-6などの血中濃度には有意な季節変動があり,暑熱負荷による検討では深部体温と発汗応答に季節差が存在する(夏季における暑熱馴化の成立)ことを証明している。ADHの季節変動は暑熱馴化と関連していることで説明される。その他のホルモンの季節変動の機序についてはストレス,自律神経機能,免疫機能などとの関連が示唆される。寒冷で日照時間が短い高緯度地域(北欧など)では冬季に心的障害の発症が増える傾向があるが,本研究の成果はその成立機序を解明するための生理学的データとして役立つ。
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