研究概要 |
量子情報理論が近年大きな発展を遂げているが,その中でも最近2,3年の量子仮説検定論の発展は目覚ましい.1991年に日合-Petzが証明した量子Steinの補題は,量子仮説検定論の発展の基礎を与えた先駆けとして重要である.最近の発展としては,Stein型の他にChernoff型,Hoeffding型の漸近エラー限界についても,相対エントロピー的な量で記述できることが明らかになった.受入研究者の日合と外国人特別研究員のMosonyiは,上記の量子大偏差原理の方法を活用して,従来の相関の無いi.i.d.型の状態(つまりテンソル積状態)に対する量子仮説検定問題を,量子スピン系の相関のある状態(ギッブス状態,有限相関状態,クェーサイ・フリー状態など)の揚合に拡張した.平成20年度の具体的な成果は以下の通りである. (1)有限距離のインタラクションをもつギッブス(KMS)状態の場合と有限相関状態の揚合に,大偏差原理および中心極限定理の観点から,平均場理論で現れる摂動項を含む自由エネルギー密度と相対エントロピー密度を考察し,それらの間で成立するルジャンドル変換による変分表示を与えた. (2)相関の無いテンソル積(i.i.d.型)状態の場合を超えて,サイト間に相関があるギッブス状態と有限相関状態に対する量子仮説検定について,Stein型,Chernoff型,Hoeffding型の3種類の漸近エラー限界に関する統一的な研究を行った. (3)(2)の結果をフェルミ系(CAR環)上の平行移動不変なケーサイ・フリー状態に適用し,多変数のSzegoの定理を用いて,Stein型,Chernoff型,Hoeffding型の3種類の漸近エラー限界を求めた. (4)ボゾン系(CCR環)上のケーサイ・フリー状態について,(3)と同様な結果を得た.
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