研究概要 |
昨年度は生体分子の課しか手法が確立したが,多段階質量分析を用いた構造解析の点ではいくつか問題点も明らかになってきた。その問題点とは,たとえば細胞膜を構成するリン脂質においては脂肪酸の詳細な構造が得られないということであり,蛋白質においては,構成アミノ酸の性質(酸性アミノ酸やプロリン)により配列情報を反映するフラグメントイオンがほとんど得られないということである.これらの問題を克服することを目的とし,大阪大学大学院質量分析グループで開発されたマルチターンタンデム飛行時間型質量分析装置を用いて研究を進めた.マルチターンタンデム飛行時間型質量分析装置では,構造解析を行う際に実験室系で20 keVの衝突エネルギーを得ることが可能であるので,昨年度まで用いていたイオンとラップに代表される低エネルギーCIDとは異なり高エネルギーCIDが可能である.本研究を進めるにあたり,測定対象は細胞膜の構成要素のひとつであるリン脂質およびリン酸化と呼ばれる翻訳後修飾を受けたペプチドとした.高エネルギーCIDでは解離機構が低エネルギーCIDとは大きく異なるため,たとえば今回対象としたリン脂質においては脂肪酸内の二重結合の位置特定が可能であることが確認された.一方,リン酸化においては低エネルギーCIDではリン酸基は容易に脱離されることが知られているが,高エネルギーCIDでは修飾基が脱利されないまま配列情報を得ることが可能であることを確認した.これにより,翻訳後修飾を受けたアミノ酸の位置が容易に特定できるという利点がある.このように,本年度研究を行った高エネルギーCIDを生態組織上の構造解析に積極的に応用することにより,位置情報と構造解析の両方を統合することでより有用なデータを手に入れることが可能になると考えられる.
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