研究概要 |
離散戸田方程式などの離散可積分系は,そのラックス表示を通して,直交多項式などの直交関数の時間発展(1パラメータ変形)を記述するものとして理解される.一方で,直交多項式などの直交関数は,その連分数との関連を通して,適当なグラフ上の径路の数え上げによって組合せ論的に解釈される.本研究では主に,直交関数として直交多項式,対称直交多項式,ローラン双直交多項式を,また離散可積分系として離散戸田方程式,離散ロトカ・ボルテラ方程式,離散相対論戸田方程式をとりあげ,それらの持つ組合せ論的な構造を明らかにしてきた.本年度は,本研究の手法をさらに広範囲の直交関数・離散可積分系に適用することを念頭において,枠組みの整理を行った.具体的には以下の通りである.直交関数と離散可積分系は,グラフ上の道の数え上げにより組合せ論的に解釈することができる.特に,直交関数に対応する線形汎関数のモーメントは,適当なグラフ上の指定された二節点間の道の重みの総和として計算することができる.また,離散可積分系の従属・パラメータ変数を枝のラベルとして持つグラフを導入することで,離散可積分系の時間発展方程式と等価な関係式を,グラフ上の道の重みの総和の言葉で記述することができる.結果として,離散可積分系はグラフ上の力学系として理解される.以上の事実は,径路の間の全単射などを用いて,組合せ論的に証明することができる.なお,直交多項式・離散戸田方程式および対称直交多項式に関する結果は,Viennot(1983,2000)の研究を可積分系の立場から補完・拡張するものである.以上の整理とは別に,ベクトル連分数についても考察し,それがあるグラフ上の道の重みの総和に関する母関数に一致することを示した.これは,直交多項式の解釈において用いた,Flajolet(1980)による連分数の組合せ論的解釈を一般化するものである.
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