研究概要 |
陸面過程モデルによる土壌水分再現精度に関して,降水量の少ない地点では再現精度が高くないことが複数のモデルに共通した特徴として示されてきた.陸面過程モデルによる土壌水分の推定精度向上のためには,どのような気象要素や外部境界条件が土壌水分の推定精度に寄与しているのかを明らかにすることが重要となる.そのために,本研究では,土壌水分収支に対して水文量が占める割合を把握するべく,月別の水収支を対象とした水収支解析を実施した.対象とした水文量は,降水,蒸発,蒸散,表面流出,基底流出,積雪水等量の変化,土壌水分の変化である.水収支解析の結果,土壌水分の推定精度が高い領域では,1)降水と蒸発散の年内変化の位相差が大きい,2)降水に占める蒸発散の割合が小さい,3)蒸発散に占める蒸散の割合が大きい,のいずれかの特徴があることが示された.すなわち,土壌水分の入力となる有効降水が十分に得られれば土壌水分の推定精度が高く,また,蒸散が盛んな地域では有効降水が十分でなくとも土壌水分の推定精度が高い.これは,気象条件だけでなく植生条件も土壌水分の推定精度に寄与することを意味している.次に,降水などの気象入力値と間隙率などの土壌パラメータを様々に差し替えた感度実験を実施した.その結果,月単位の降水量補正によって土壌材水分の推定精度が向上することと,土壌パラメータを適切に設定することで土壌水分の推定精度が向上する可能性が示された.ところで,モデル推定値は緯度経度1度という空間的広がりを持った平均値であり,モデル推定値と地点観測値との間にな空間スケールにギャップが存在する.そこで,新たに土壌水分観測点で観測された値を土壌・植生・気象データとしたモデル計算を実施した.その結果,地点データを入力値に与えることで土壌水分推定値の季節変化の変動量が,観測された値とよく一致することが確かめられた.
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