研究概要 |
平成20年度の研究実施状況及び成果発表状況は以下の通りである.他者の存在に気づき相手の感情を認識することは,コミュニケーションをとったり協力して作業したりといった社会生活のために非常に重要な視覚機能である.本研究では動作する他者の存在を認識するための情報処理と動作からの感情の理解に関わる情報処理の関係について調査した.具体的には人間の歩行時のバイオロジカルモーションをノイズから検出させたときの検出成績と,そのバイオロジカルモーションが表現する怒りや幸福といった感情を判断させたときの成績との相関関係を検討した.このために,同一試行内でバイオロジカルモーションの検出とそのバイオロジカルモーションの表現する感情の判断の両方を行わせるという課題を採用した.感情には怒り感情と幸福感情の2種類を使用した.もし感情判断とバイオロジカルモーションの検出とが強く関係しているとしたら,これら2つの課題の成績間に相関がみられるはずである.実験の結果,怒り感情条件にのみ検出成績と感情判断成績との有意な相関が示された。つまり,自分の観察する他者が怒り感情を持っていると正しく判断できているときは他者の動作の検出も正しくできている確率が高いという示唆が得られた.周囲の誰かが怒っている状況は,そうでない場合に比べ,誰が怒っているのかその対象をはっきりと把握することが,社会的に適切な行動を選択する上できわめて重要である.本研究では他者の動作を認識することに関わる情報処理と他者の持つ感情の判断に関わるメカニズムの相関関係が他者の感情によって異なっており,この侍違は,怒り感情と幸福感情を識別したときの人間の行動的な意味の違いを反映している可能性を示すものである. この成果は国際学会であるVision Sience Societyと日本基礎心理学会で報告した.また国際誌であるPerceptionに成果をまとめた論文を投稿し,受理された.
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