研究概要 |
一般的に,神経伝達物質受容体はシナプス後膜に高い密度で集積している.シナプスに集積する受容体の数が神経活動依存的に増減することが,現在のところシナプス可塑性の分子基盤の一つであると考えられている.シナプスにおける受容体の数の変化を説明するために,細胞膜上におけるシナプスへの受容体の出入りすなわち受容体の側方拡散(diffusion)というファクターが近年注目されている.本研究は,神経活動が受容体の側方拡散制御を介してシナプスの受容体数を増減する仕組みを明らかにすることを目的とする. 第一の実績は,神経活動が抑制性シナプス受容体GABA_A受容体の側方拡散とクラスターサイズを制御していることを発見したことである(未発表).海馬初代培養細胞において,薬理学的手法により神経の興奮性活動を促進したとき,GABA_A受容体の側方拡散が早くなり,シナプスにおける受容体のクラスターサイズが小さくなることを見いだした.さらに,受容体側方拡散には細胞外からのカルシウム流入が必要であることを示し,それを担うカルシウムチャネルの一部を同定した. 本研究実績の第二は,量子ドットを利用して細胞膜上の分子の側方拡散を1分子レベルで測定する実験系と解析系を習得し,理化学研究所にそのセットアップを立ち上げる準備が整えたことである(Bannai et al.2006 Nature Protocols).また,東京大学医科学研究所の井上貴文助教授と共同で,実験データ解析プログラムを開発した. 本研究は,フランスパリ高等師範学校のAntoine Trillerの研究室(Ecole Normale Superieure, Paris, Biologie Cellulaire de la Synapse N&P, Inserm U497)にて実施された.
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