研究概要 |
今年度の研究では,権力面に偏りがちであったカスティーリャ王権研究を権威面からのアプローチが可能かを検証した。エンリケ4世の王位継承抗争を一つの文化抗争として捉え、その中で12世紀ルネサンスと連動した「西ゴード・ルネサンス」や王国概念、暴君放伐論がどのように王を中心に実践されたかを考察した。それを軸としてカスティーリャ王権についての歴史的プロセスを三段階に分け、これまでされてきたような「非神聖王権」「再分配王」「フランス型王権」といった一元的な性格づけではなく、時期ごとに儀礼における傾向が異なることを示した。当該課題であるエンリケ4世期については、貴族の権威攻撃に対し、対抗儀礼など同じイデオロギー闘争の次元で自らの権威を補強した。この時期王権と貴族の参加による平和強調的儀礼が顕著である。このようにエンリケ4世期はHechura regia(王権の庇護の下)でのコミュニケーションによる政治的調整の時期であり、権力面から弱い王権であると結論付けるのは性急である。王権の権威とそれを軸とした王国統合という観点からすれば、エンリケ4世期は12,3世紀以降の王権伸張プログラムを大きく推し進めたとこれまでの先行研究と異なる新たな見解を示した。
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