研究概要 |
本研究は、非ヘム遷移金属活性中心における分子状酸素の活性化機構の解明を目指したものである。昨年度は、各種置換基を導入した一連のβ-ジケチミネート配位子を用いて銅一価および銅二価錯体を合成し、導入した置換基が金属中心の構造や物性および過酸化水素との反応性に及ぼす効果について系統的に検討を行い、その結果、銅含有一原子酸素添加酵素であるpMMO(可溶性メタンモノオキシゲナーゼ)の反応機構の解明に対して重要な知見を与えてきた。そこで、本年度は過酸化水素の類縁体であるNa_2S_2との反応について系統的に検討を行った。その結果、二核銅二価ジスルフィド錯体の新たな調製法を見いだすとともに、炭素骨格上や窒素上導入した置換基によりその反応性が制御できることが明らかとなった。(M. Inosako, C. Shimokawa, et. al., Chem. Lett., 2007, 36, 1306-1307)また、β-ジケチミネート配位子の窒素上の芳香属置換基にフェノール基を導入した新規な四座配位子を合成し、それを用いてニッケル錯体を調製した。得られたニッケル錯体を用いてmCPBAを酸化剤としたアルカンの水酸化反応について検討した結果、水酸化反応が効率よく進行することを見いだした。得られた酸化活性種の構造や生成反応機構、および反応性などについても検討を行った。(宇佐・下川ら,日本化学会第88回春期年会)さらに、酵素系の反応へと発展させるため、軟体動物の酸素運搬蛋白質であるタコヘモシアニンの最小活性ユニットの単離生成に成功し、その反応性について詳細に検討を加えたところ、天然のヘモシアニンよりも高いモノオキシゲナーゼ活性を示す事が明らかとなった。(K. Suzuki, C. Shimokawa, et. al., Biochemistry, submitted)この結果は、Type-3銅タンパク質の反応機構の解明に対して重要な知見を与えた。
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