研究概要 |
平成20年度の研究では、前年度の研究で明らかになった平等を中心とした規範的諸価値の関係をふまえて、福祉社会において求められる正義の具体的構想を提示することを目標とした。今年度はまず、正義の具体的構想を提示する上で重視されてきた、「何の平等か?」という問いをめぐる論争について、自らの見解を提示する研究に取り組んだ。その成果が、拙稿「厚生の平等-「何の平等か」をめぐって-」『思想』第1012号(2008年8月)、である。さらに正義の構想を下支えする平等の価値をめぐって、積極的な議論が提示できるかどうかについて検討した報告「平等の価値」(2008年7月、日本イギジス哲学会関東部会研究例会にて報告)を行い、参加者から高い評価を得た。 また前年度から継続して、自己所有権が正義の具体的構想においてどのような役割を果たすのかについて、左派リバタリアニズムの議論を検討した。その成果が、2007年10月に行った学会発表「自己所有権と平等-レフト・リバタリアニズムの意義と限界-」に大幅な加筆修正を加えた、拙稿「自己所有権と平等-左派リバタリアニズムの意義と限界-」『年報政治学』2008-II号(2008年12月)、である、さらに今年公刊予定の研究成果としては、平等と責任の関係を解明した、拙稿「平等と責任」『創文』第515号(2008年12月)、があげられる。関連して、平等や責任といった正義の規範的諸価値が今日の多元的世界における公共性を、どのようなかたちで支えるのかについて検討した、拙稿「正義・最小限真理・公共的理由-多元的世界における公共性の哲学-」、井上達夫(編)『岩波講座哲学社会/公共性の哲学』岩波書店,(2009年)も、特筆すべき研究成果としてあげられる。
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