研究概要 |
チベット高原による大気の加熱はアジアの気候形成において主導的な役割を果たしている.本研究課題の昨年度の研究により,春季のチベット高原加熱が,(1)インド北部におけるモンスーンのオンセットを遅らせていること,(2)中国北部で夏に降水を抑制し特徴的な乾燥気候の形成の原因となっていること,などが分かった.本年度は,チベット高原上の対流活動に着目した研究を行った.春季のチベット高原上の対流活動は強い日周期性を持つことがごく最近になって分かっており,水蒸気の凝結による加熱が大気加熱に大きく貢献していると考えられる. まず,東大気候システム研究センターと地球環境フロンティア研究センターを中心に開発が行われている全球雲解像モデル(NICAM)を用い,チベット高原上の対流活動の日変化について調べた.従来の全球モデルでは,水平解像度が低いためにチベット高原は滑らかな山岳として表現されているか,高原の形状は把握できたとしても,高原内部の凹凸は表現できていなかった,NICAMでは,春季の高原上にみられる対流活動の日変化を非常によく再現していた.この日変化のシグナルは総観規模擾乱の通過と共に東進し,高原外部にも影響を及ぼすことが示唆された,メソスケールモデルを用いた研究では,モデルの水平解像度が上がるほど,人工衛星で観測される対流活動に近い特徴を示すことが明らかとなった.雲システム解像スケールの空間分解能を持つ数値モデルで1ケ月程度の数値積分を行い,モデルの水平解像度がメソスケールの降水システムの再現性に与える影響を調べたのは,この研究がはじめてである. 中国北部の対流活動についても人工衛星データを用いて解析を行った.その結果,黄河流域の土地利用,とりわけ灌概農業に対応して,特徴的な雲の分布パターンが見られることを世界で初めて示した.この結果は,人類による土地被覆の改変が,地域の気候を変化させていることを指摘した重要な結果である.
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