研究概要 |
平成18年度より新規マウス細胞質型ホスホリパーゼA_2(cPLA_2)遺伝子群(cPLA_2δ,ε,ζ)の機能解析を進めてきた。平成18年度は、定量的PCRによりマウスcPLA_2δ,ε,ζの臓器/組織発現分布を再検証し、新たにcPLA_2ζが精巣上体で強い発現を示す事を明らかにした。精巣上体は、精子を成熟させる器官であり、その機能は主に雄性ホルモン調節下にある。精巣摘出による雄性ホルモン濃度の低下が精巣上体におけるマウスcPLA_2ζの発現におよぼす影響について検討した結果、精巣摘出4日後にはcPLA_2ζのmRNA発現量が定常状態の1/5程度に低下し、また雄性ホルモンの連日投与により精巣摘出後のcPLA_2ζの発現が維持されることが分かった。このことより、精巣上体でのcPLA_2ζの発現は雄性ホルモンにより直接的もしくは間接的に制御されていると考えられた。 また平成19年度には、cPLA_2ζタンパク質でもmRNAと同様の発現変動を示すことを新たに樹立したウサギ抗マウスcPLA_2ζポリクローナル抗体を用いることで明らかにした。さらに、精巣上体組織破砕液のPLA_2活性においてもmRNA、タンパク質発現と対応する変動が認められた。これらの結果より、cPLA_2ζがタンパク質レベルにおいても精巣上体体部領域で雄性ホルモンによる制御を受けていると考えられた。さらに、生理機能解析を進めるためOrgebin-Crist MC氏らが樹立した 温度感受性SV40 T抗原過剰発現マウス由来の精巣上体上皮細胞株を入手し、cPLA_2ζの発現と関連する生理活性脂質産生もしくはリン脂質組成変化の測定を計画した。しかしながら、雄性ホルモン存在下/非存在下いずれにおいてもcPLA_2ζの内在的発現は認められなかった。今後は初代培養細胞を用いた解析を進めて行く予定である。具体的には、雄性ホルモン濃度の変化もしくはsiRNA法を用いることにより、cPLA_2ζの発現量を変動させ脂質代謝に変動が認められるか、さらには未成熟の精子との共培養による精子成熟能に差が認められるかの検討を行う。
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