●スキルス胃癌細胞のTGF-βシグナルを遮断した揚合のin vivoにおける検討 スキルス胃癌は著しい線維化を伴いながら、広範囲にわたるびまん性浸潤を特徴とする、予後不良の癌のひとつである。これらの組織型の原因として、原発巣におけるTGF-βシグナルの充進が考えられている。 そこで我々は、スキルス胃癌の増殖や転移を抑制することを予想して、スキルス胃癌細胞株(OCUM-2MLN)にドミナントネガティブ型TGF-β type II受容体(dnT β RII)を安定発現させ、TGF-βシグナルを抑制した時の腫瘍増殖について、皮下移植モデル・同所移植モデルを用いて検討した。しかし、結果は驚くことに、dnT β RIIによってスキルス胃癌細胞の腫瘍増殖は促進した。このとき、腫瘍血管新生が充進していたとともに、線維化が抑制されていた。また、他のスキルス胃癌細胞株(OCUM-12)においても、dnT β RIIによって腫瘍血管新生が亢進し、腫瘍増殖が促進した。我タは、血管新生の原因の一つとして、血管新生抑制因子であるThrombogpondin(TSP)-1の発現低下が起きていることを見出した。さらに、dnT β RII発現細胞にTSP-1を発現させると、腫瘍増殖が抑制されることが観察された。次に、血管新生阻害剤(Sorafenib)を投与した場合のdnT β RII発現細胞の皮下腫瘍増殖を調べると、増殖を顕著に抑えることができた。同様に、dnT β RIIを発現させた他のスキルス胃癌細胞株(OCUM-12)の皮下腫瘍でも、血管新生阻害剤(Sorafenib)は腫瘍増殖を抑制した。 以上のことから、TGF-βシグナルの破綻した悪性度の高い癌は、血管新生や線維化といった癌微少環境を変化させ増殖・進展を促進しており、これらの悪性度の高い疵において、腫瘍血管新生の阻害が腫瘍増殖の抑制に効果的であることがわかった。現在、Journal of The National Cancer Instituteに投稿中である。
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