研究概要 |
近年,組織や社会,さらに人間が設計し操作する人工システムにおいてさえも,それを取り巻く環境は大規模・複雑化し,構造自体も複雑多様化している.この状況下で目的を実現するシステムを設計するためには,複雑系研究の基本原理である創発的手法に根ざした共創的意思決定の方法論に基づくアプローチを確立することが有効であると本研究では考えている.さらに研究代表者は,実世界のエージェントの合理性には限界がある点に着目し,限定合理性を導入した人工システムの共創的意思決定の方法論を構築・検証することを目指して研究を進めてきた. 平成18年度は,入念な関連分野の調査と体系化,限定合理性のモデルの提案およびマルチエージェントシミュレーションによる提案モデルの妥当性の検証をおこなった.その結果,限定合理性が利他性や役割分担の創発に繋がり,システムの性能を向上させる可能性が示された.さらに,限定合理性の質の違いにより,その導入が有効性を発揮する環境の条件が異なることが示唆された. それに引き続き本年度は,モデルを発展させた実験を進めた.その結果,環境の不完全性の種類と程度に応じて,環境条件に応じた非合理性,自分の中の規律に応じた非合理性,環境条件と規律の適合によって発現する非合理性の3つの性質の有効性が異なることが示された. さらに共創研究の発展として,サービス市場における価値創成に関する研究に取り組んだ,サービス市場は,消費者同士の相互作用により嗜好やサービスの価値そのものも変化するという困難さがある.これに対し,市場を共創システムと捉え,提供者と消費者さらにはサービスが,互いに相互作用しながら価値を創成するマルチエージェントシステムモデルの基礎を作り,簡単なシミュレーションによりその妥当性を検証した.この研究は共創研究の領域横断的拡張の足がかりと成り得る.
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