研究課題/領域番号 |
06NP0101
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研究種目 |
創成的基礎研究費
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 岡崎国立共同研究機構 |
研究代表者 |
江橋 節郎 岡崎国立共同研究機構, 生理学研究所, 名誉教授 (10009863)
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研究分担者 |
山岸 俊一 岡崎国立共同研究機構, 生理学研究所, 教授 (70014032)
本郷 利憲 東京都神経科学総合研究所, 所長 (60013843)
大森 治紀 京都大学, 医学部, 教授 (30126015)
丹治 順 東北大学, 医学部, 教授 (10001885)
佐々木 和夫 岡崎国立共同研究機構, 生理学研究所, 教授 (20025539)
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研究期間 (年度) |
1990 – 1994
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研究課題ステータス |
完了 (1994年度)
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キーワード | 生体機能 / 高次脳機能 / 非侵襲的アプローチ / 行動制御 / 神経回路 / 感覚機能 / 認知機能 / 脳磁図(MEG) |
研究概要 |
創成的基礎研究「生体機能の統合的研究」は新プログラム"生体における動的機能の解明"の研究班として脳機能を中心とする生体の働きの解明を目指し、総括班および3つの研究班によって5年目の最終年度の研究活動を展開した。 総括班は平成6年度の研究方針を討議し、設備の配置を進め、研究の進行を支援した。平成6年11月に公開の国際シンポジウム「New frontier of the research on higher brain function」を開催し研究成果発表会とした。また五カ年の研究のまとめとして総説誌「脳の動的機構とその基礎過程」(日本生理学雑誌増刊号)を平成7年3月に出版し、研究成果を集大成して世に問うこととした。 研究第1班「脳の高次機能の非侵襲的アプローチ」班(佐々木和夫班長)は主にヒトの脳の高次の活動を対象に研究を進め、平成6年11月の国際シンポジウムの招待講演者として佐々木、栗城、柴崎、Okada、Hariの各班員が研究の成果を発表した。 Okada班員はMicro-SQUIDを用いてin vitroおよびin vivoの動物実験を行い、脳磁計の脳活動記録における優れた時間的空間的解像力を示し、神経細胞膜の活動の際のイオン電流から、海馬の長期増強機構の解析にまで言及した。栗城班員は日本語音声および文字刺激による側頭葉と後頭葉大脳皮質の活動を脳磁計により記録分析した結果を報告し、柴崎班員は随意運動に関連した脳活動を脳波、脳磁場、PETによる脳血流計側の面から多角的に解析した結果を発表した。Hari班員は122チャンネルの全頭周型脳磁計により、人間の10-20Hzの律動脳波の電流双極子を推定し、後頭葉および前頭-頭頂葉に発現するこれらの律動波の発生源がかなり特定部位に時局したものであることを見出した。佐々木班員はサルの大脳皮質フィールド電位解析、人間の脳波脳磁場計測による結果を統合して、前頭連合野の判断と抑制機能、暗算思考中の前頭知的シ-タ波の出現機序などを解析報告した。 以上のほか、柿木班員は末梢神経電気刺激およびCO_2 laser光線による痛覚刺激による誘発脳磁場の記録解析を進め、1次および2次体性感覚野のgating現象などを研究した。下条班員は反応潜時パラダイムによる種々の光刺激-運動課題への応答から、2種類の視覚機能あるいは径路の独立性の存在を示唆し、"ポッ
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プアウト"刺激を加えて視覚短期記憶にも言及した。亘班員は局所磁場MRにより、無機燐の信号に着目し、骨格筋の運動負荷の際の動態の研究から脳の代謝情報観測の可能性を示唆した。 研究第2班「行動制御による高次脳機能の研究」(丹治順班長)においても、得られた成果はめざましいものがあり、脳高次機能の諸分野において新しい概念を提供する画期的な成果もいくつか得られ、最もプレステジ-の高い国際学術専門誌に多数発表されつつある。久保田班員は大脳皮質前頭前野の活動が運動前野に伝えられることで行動から運動への転換が行われる過程の一端を示し、次に皮質細胞活動を支えている物質としてのドパミンやGABAの作用を明らかにした。本郷班員は指向運動の制御に関し、感覚性に誘発される運動と感覚情報を識別して行う運動とのそれぞれに関与する脳幹と脊髄の機構を明らかにした。酒田班員は大脳頭頂葉の働きのなかでも重要な外界の物体にアプローチする際の感覚情報の処理機構について研究したが、外界物体への到達運動と、物体の形状に応じた手操作運動に関与する機構が頭頂葉の2つの領域に分かれて存在することを明らかにした。彦坂班員は大脳基底核の機能的役割について、新たな側面すなわち手続き的学習の成立への関与を調べ、被殻と尾状核の有する役割を明らかにした。木村班員は運動課題の習得という観点から線状体の機能を調べた。化学伝達物質や神経毒の局所投与法と細胞活動解析法を活用して、線状体の学習への関与の実態を明らかにした。粟生班員は霊長動物の性差別機構を行動学的に特徴づける知見を得た。他方視床下部カルシウム調節機構が、情動反応やストレス応答に密接に関与することを明らかにした。福田班員は海馬体のLTP刺激で海馬体ニューロンの情報処理様式がどのように変化するかを、場所フィールドの成立との関係で調べ、両者に関連が存在することを見出した。入来班員は大脳感覚野細胞の活動が、単に体性感覚情報を伝えるだけではなく、巧緻な運動の遂行や、その熟練性の獲得に関与するという実態を明らかにした。森班員は脳幹による歩行運動や姿勢の制御機構に関して、形態と機能の両面から研究を行い、特にモノアミン系の役割を明らかにするなどの成果を挙げた。丹治班員は新しい大脳運動野とみなされる前捕捉運動野や帯状皮質運動野の役割を特徴づけることに成功し、さらに一次運動野におけるグルタミン酸受容体の役割を機能的に示すに至った。 研究第3班「高次脳機構の基礎としての神経回路の働きの研究」(大森治紀班長)においても、当初の予測を越える新しい領域への研究の進展が見られた。 第3班の研究の成果は次の3つの分野の研究としてまとめられる。即ち(1)発生期においてフロアプレートの関与する神経回路の形成過程および視神経軸策伸展の誘導因子の細胞接着性の研究(村上、高木)あるいは神経移植の後にみられる神経軸策の再生様式における特異性の研究(福田)。そして、大脳皮質分離培養細胞系で再構成されるシナプス活動の形成過程および記憶の素過程の研究(外山)が神経回路網の発生、形成および再生機構の研究の分野で行なわれた。(2)シナプス活動に伴うシナプス小胞内蛋白質リン酸化とシナプス伝達物質放出の研究(小幡)。さらに、シナプス伝達に関与するCaチャネルの研究(山本)、および非常に発達した位相応答特性をシナプス伝達において示す聴覚中継核神経細胞の機能がKチャネル活動で実現されていることの証明(大森)がシナプス伝達機構の研究として行われた。そして、(3)シナプス伝達の可塑的機構の研究では、小脳あるいは海馬で観察されるシナプス伝達の長期抑圧および増強に関与するグルタミン酸受容体が分子生物学の知見および手段に基づき解析され、それぞれ特定の受容体サブユニットの機能の発現として理解されるに至っている(平野、杉山)。 以上三つの研究班は脳研究をそれぞれ異なるアプローチで進めながら、相互に深い影響を及ぼしつつ、脳を中心とした生体の動的機構の解明に向けて研究を大きく進展させることができた。 隠す
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